A fool falls in love.
十兵衛は、一体何が楽しくて僕なんかを抱くんだろう。
花月は、首を傾げる。
だって、僕なんて男なんだから、いろいろ面倒なだけで面白くないんじゃないのかな。
それでも、十兵衛は、花月の男の象徴をまさぐり､膨らみのない胸の先端を執拗に吸い、うしろを外から濡らしてねじ込もうとするのだ。
「い・・・た・・・・っ、あ・・・・」
それでも、痛いのは最初のうちだけ。
丹念に愛撫を施されたそこは、すぐに十兵衛に馴染んで、それが気持ちいいことを思い出す。
「あ・・・あ・・・・あは・・・・ん・・・・」
熱い楔と、熱い腕。
自分とはまったく違う幼馴染の、逞しい体にしがみ付いて､背筋の下から突き上げる快楽に､身を浸す。
「花月・・・・」
自分の名前を呼ぶ声や、汗の匂いや。
抱かれている間は､そんなことにまで欲情して、女のような声を上げてよがりくるう。
「あっ、あ・・・あぁん」
何度もイかされるのはいつものことで、気持ちよすぎてわけがわからなくなるのもいつものことで。
こうしているとき、ふっと、何か苦しくなることがあるのだけれど、与えられる快楽に、すべて流されてわからなくなる。
だから、ささやかな疑問だけが今日、花月の内に残った。
「十兵衛､僕として、気持ちいい？」
散々交わって、蕩けた下肢をシーツで隠し､花月は十兵衛から少しだけ離れて、未だ熱の残る吐息を言葉に紡いだ。
「当たり前だ」
十兵衛の返答は簡潔で､簡潔すぎて花月の疑問に答えない。
「そうじゃなくて、さ・・・んっ・・・」
わずかな距離を、腕を伸ばすだけで詰められて、逞しい腕に閉じ込められる。
硬い指に柔らかい肌を擦られて、ひくん、と体全部が反応してしまった。恥ずかしい。
「そうじゃない？」
「ああん・・・」
閉じきらないそこに指を差し込まれ、官能の残滓をかき乱されて、花月は堪らず声を上げた。
「お前は・・・気持ちよくはないのか？」
こんな声を出して？
囁かれた声に耳奥を愛撫されて、花月はまたもや艶やかな声をもらしてしまう。
可愛らしく啼き、再び十兵衛の腕の中へと堕ちてきた花月を愛しみながら、盲目のサムライは、それでいい、とひとりごちた。
与えられる快楽に、夢中の花月は気づかない。
賢い花月は、自分たちの関係が、体だけのものだと信じている。
賢い花月は、賢いからこそ、それ以上考えようとしていない。
それで、いい。
自分たちの仲は、主従か、もしくはそれを越えた、親友でなければならないのだから。
友でさえあれば、セックスフレンドでもかまわないというのは詭弁だろうが、かまわない。
柔らかくほどけた場所で、十兵衛のものを締め付けて。
細い腕を、十兵衛の首に巻きつけて。
初めてのときから、ただの一度も十兵衛を拒むことなく。
こんなにも、体全部で訴え続けているのに、花月だけが、そのことに気づいていない。
だから、十兵衛も、言わない。
言わずに、体全部で応え続ける。
十兵衛の情熱を受け入れ続けた場所は、赤く熱を持っていた。
そこに、労りの口付けをしてもらうと、力を失った体が、ひくりと震えた。
白濁の液の滴る内股へ、滑らかな曲線を描く膝頭へ、するりと爪先までを撫で下ろして、十兵衛を探す指先へ、そして唇へ。
優しい口付けの後戯に満足して、花月は眠りについた。
十兵衛も気持ちいいなら、いいや。
それで、いい。
愛してる、なんて。気づかない方が、楽に生きていけるから。
賢いお前は、そのままで。
抱いても抱いても苦しいだけで、楽しいことなど何ひとつない。
それでも、手を伸ばさずにはいられない、地獄のような恋。
愚かな俺だけが、この思いを抱えていれば、それでいい。
「じゅうべえ・・・」
聞こえた、小さな寝言が、ほんの少しだけ愚者を慰めた。